リレーエッセイNo.5 「子どもたちと遊びの場 森下雅史先生」

日本子ども健康科学会事務局でございます。平素より当学会にご高配賜りありがとうございます。

リレーエッセイ第5回目は公立陶生病院小児科 森下雅史先生です。

能登半島地震から2か月以上が経過しました。被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。発災後比較的早い時期から、地元の有志の方やNPO・NGO等による子どもの遊び場づくりの話題が報道されています。災害時など、まずはそれぞれの身の安全の確保と安心できる場の確保が大切になりますが、子どもたちにとっては本来、遊びや学びこそが生活の中心であり、災害時にも衣食住と同じくらいに「遊び」や「安心して遊べる場所」への支援が必要になると思われます。こういった活動を進めている皆さんには感謝の思いしかありません。

私が初めに研修させてもらった病院では、小児科は内科との混合病棟でしたが保育士さんがいました。塗り絵や折り紙、読み聞かせなどで、子どもたちが私には見せない良い表情で過ごしているのを微笑ましく見ていました。その後の急性期病院では先輩医師に保育士さんなど不要、といわれたこともありましたが、最近は、小児病棟の壁面装飾やプレイルームも、保育士さんなどの専門職がいるのも当たり前になりました。感染症の入院も多く対応が難しい面がありますが、入院中の子どもの遊びや育ちを支える大事な役割を担ってくれています。

ところで、遊びといえば、自分が子どもの頃は、友達と一緒に学校周りに点在する雑木林の中を探検したり、某大学移転後の旧グランドに集合して草野球をしたり、あまり家の中で遊んでいた印象が残っていません。自分の子どもたちは公園や児童館・公民館に出かけたり、時にお友達の家にお邪魔したり、という状況だったようです(お父さん、知らんのかい、とツッコミが入りそうですが働き方改革以前の世代なのでお許し下さい)。

最近は、空き地はなくなり、公園はサッカーや野球は禁止のところが多く、芝生には「養生中」とロープが張ってあったり、何より夏は暑過ぎたりして、子どもたちが思いきり身体を動かすことも簡単ではなくなっているように思います。また、夫婦と子どもがいる世帯のおよそ7割が共働き家庭となっており、学童保育を活用する子どもは少なくありませんが、学童保育が思いきり遊べる環境かどうかは、地域差や施設間格差がかなりありそうです。外で大いに暴れたい日も、部屋で本を読んだり絵を描いたりしたい日も、時に一人で静かに過ごしたい日もあるでしょうが、彼ら一人ひとりの好奇心やエネルギーに応えられているのでしょうか?

もはや、入院中の子どもや被災地の子どもたちだけでなく、普通の子どもたちの普段の「遊び場」の心配をすべき時代なのかも知れません。

いや遊び場だけではない、「サンマ」が減ってしまっている、とのこと。この言葉自体を私は最近まで知りませんでしたが、遊ぶための空間だけでなく時間と仲間、この「3間」の減少については、少なくとも1990年代初めには「いわれて久しい」問題として指摘されています。外来の子どもたちに聞くと、塾が終わると21時や22時になることもあるようで、遊びの時間どころか生活の時間も無くなっていて、冷静に考えると子ども向けのサービスとしては違和感を感じます。また、少子化が進んで(おまけにみんな忙しくて)「三角ベース」ですら人数を集めるのは難しいかも知れません。

30年以上の間、子どもたちの遊びの「サンマ」の減少に対する有効な手だてが講じられている様子はなく、一筋縄では行かない問題ですが、放って置けば更に危機的になりそうです。さてどうすればいいのか、自問自答しても答えは出てきません。

これからも、この学会を通じて少しずつ学んでいきたいと思います。また、診察室に現れないような子どもたちの未来にも少しでも役に立てる学会であればと願っています。

公立陶生病院小児科 森下雅史

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