リレーエッセイNo.23 「絵本に願いをこめて~学生とともに描く医療絵本~ 吉川未桜先生」
日本子ども健康科学会事務局でございます。平素より当学会にご高配を賜りありがとうございます。
リレーエッセイ第23回目は、下関市立大学看護学部看護学科 講師 吉川未桜先生です。
絵本に願いをこめて~学生とともに描く医療絵本~
ファーストブックをきっかけに絵本を集めはじめてから、子どもが家を巣立った今でも、我が家の本棚にはたくさんの絵本が並んでいます。育児中は本当に毎日が慌ただしく、余裕のない日々でしたが、そんな中でも子どもと一緒に絵本を選び、読み聞かせを楽しむ時間は、今振り返ってもかけがえのない思い出として心に残っています。
そんな私ですが、前任校である福岡県立大学にて、数年前から附属研究所の絵本プロジェクトに参加し、現在は学外研究員として活動を続けております。このプロジェクトは、看護学生と保育学生が協働し、子どもの健康や医療に関する絵本を制作する取り組みで、学生時代から専門職連携を意識できるようにという思いから始まりました。小児科医の先生にもご協力をいただき、2023年度には「がんばれ!てんてきマン」と「MRIってなあに?」の2冊の絵本が完成いたしました。地元の医療スタッフに協力を得た調査では、3~9歳の子どもたちに医療への関心や前向きな態度を促す効果が見られました。一方で、物語の長さや説明の表現、キャラクターの表情などについては、改善の余地があるとのご指摘もいただいております。
現在は「超音波検査」と「内服」に関する絵本を制作しており、いただいたご意見を反映しながら、学生たちとともに試行錯誤を重ねているところです。その中で、私たちが悩ましく感じているのが、「絵本」と「プレパレーション」の関係です。私たちが制作している医療絵本には、子どもが楽しめるように、多少の空想的な要素を含めています。しかし近年の小児医療現場では、病気や入院によって生じる子どもの心理的混乱に対し、事前の準備や配慮を通じてその影響を和らげ、子どもや保護者の対処力を引き出す「プレパレーション」が重視されています。そこでは、誤解や空想による不安や恐怖を避けるため、キャラクターを用いる場合でも現実に忠実な表現が求められています。空想的な描写は学生の工夫であり、私たちの絵本の魅力の一部ですが、正確な情報提供を重視する医療現場では使用が難しいという課題も指摘されています。学生たちは、処置や検査の本質的な内容を損なわないように配慮しつつ、子どもが楽しめるよう創造的な工夫を凝らしてくれていますが、そのバランスに悩む場面も少なくありません。
課題は多くありますが、学生たちは熱意をもって取り組んでくれています。絵本の専門家ではない私が申し上げるのも恐縮ではありますが、これらの絵本を通じて、子どもたちが医療処置や検査に対して興味や関心を持ち、大人も理解を深める手助けとなり、子どもとの話題を共有するきっかけとなれば。絵本によって子どもとの時間を豊かにしてもらった一人として、そんな願いを込めて、これからも絵本と向き合い、子どもたちの心に寄り添う活動を続けていきたいと思います。
下関市立大学看護学部看護学科 講師 吉川 未桜