リレーエッセイNo.22 「食物アレルギー外来でのお話 松原知代先生」

日本子ども健康科学会事務局でございます。平素より当学会に格別のご高配を賜り、誠にありがとうございます。

リレーエッセイ第22回目は、獨協医科大学埼玉医療センター 小児科 松原 知代先生です。

 「こんにちは。前回からどうですか?食べられていますか?アレルギー反応が出てしまったときはありましたか?」から会話が始まります。食物アレルギーの患者さんは増加しています。一昔前の食物アレルギーの原因は卵、牛乳、大豆の順でしたが、数年前から卵、牛乳、小麦の順になり、2022年にはナッツが小麦を抜いて第3位になっています。

 症状が出たときの治療法はありますが、根本的な薬物療法はありません。「必要最小限の原因食物除去」が診療の基本です。必要最小限の除去とは、症状が出るものだけ(種類と量)を除去することです。積極的治療には経口免疫療法があります。これはアレルギーのある食物について、症状が出現しない少量から摂取し増量することによって耐性を獲得して食べられるようにすることです。症状が出現しない少量を継続することが大事ですが、とても大変です。アレルギー症状が出たことがある食べ物を食べ続けなくてはいけないからです。

 例えば、卵で蕁麻疹や腹痛が出たことを覚えているお子さんは、卵が入っているものを本人が嫌がるのは当然です。卵の味がしないもの、卵と見えないものを選ぶ工夫をします。食物経口負荷試験を実施して、何グラムまでの卵が入ったものまで食べられるかを決定して食べ続けるのですが、続けられないお子さんもいらっしゃいます。

 カレンダーに食べたものを記載し、食べた日に可愛いシールを本人に貼ってもらったりします。外来では記載してもらったカレンダーを確認して、たくさんお子さんとお母さまをほめて「頑張りました」のハンコを押します。お子さんとお母さまによって、食べ続け方は様々です。現時点では早道はなく、その家庭環境やお子さんにあったやり方を見つけていくしかありません。

 牛乳1滴でアレルギー症状が出てしまったお子さんが、牛乳を200mL飲めるようになり、すべての乳製品が食べられるようになったときには、とても嬉しく達成感があります。お母さまから「先生のお陰です」と感謝されますが「いいえ、お子さんとお母さまが頑張った成果ですよ」と言ってあげられるときが、もっとも幸せな瞬間です。

 挫折することも多々ありますが、本人と保護者に寄り添って、食物アレルギーが治ること、また、完全に治らなくても、誤食でアナフィラキシーを起こさない程度にしてあげたいと思っている日々です。

獨協医科大学埼玉医療センター 小児科 松原 知代

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