リレーエッセイNo.21 「こどもたちに “生命(いのち)” について伝える―健康教育『たったひとつの たいせつな いのち』を通して― 田中美樹先生」

日本子ども健康科学会事務局でございます。平素より当学会にご高配を賜りありがとうございます。

リレーエッセイ第21回目は、福岡県立大学看護学部看護学科 小児看護学 准教授 田中美樹先生です。

 ここ数年、連日のように、まるで生命が軽視されているかのような事件や戦争・紛争のニュースが伝えられています。たとえ無意識であっても、未来を担うこどもたちが、このようなニュースを見たり聞いたりすることで、何を思い感じているのか、とても不安な気持ちになります。また、本格的な少子高齢化社会が到来し、子育て世代に優しい環境整備が促進されている一方で、出生数・こども人口減少の加速、貧困、育児ストレス、虐待・ネグレクトなど、子どもと家族を取り巻く環境は依然として厳しい状況だと感じます。

 このような、現代社会の中で、小さな小さな取り組みではありますが、大学周辺にある幼稚園等で、自分の生命だけでなく、周囲の人たちの生命の大切さを伝える健康教育「たったひとつの たいせつな いのち」を毎年行っています。

 お母さんのお腹の中で誕生し育まれた生命が生まれてきたこと、大切に育てられた生命が大きくなって今があること、そして、その生命はたったひとつであり、亡くなってしまうと元には戻らないから大切にすることについて、パネルシアターや絵本などを使用して、お話しています。そして、こども自身にそのことを実感してもらうため、大きな胎盤・産道モデルを使用し、お母さんのお腹の中から生まれてくる場面の再現や、医療用聴診器を使用し、こども同士で心臓の音を聞き合う体験をする時間を設けています。もちろん、怖がるこどもには無理強いをせず、少し離れた場所から見てもらっていますが、最後は自ら進んで体験できています。体験の場面は、ポラロイドカメラで撮影し保健だよりとして保護者の方へ配布し、子どもと生命に関する様々なお話をするきっかけになるようにしてます。短い時間の健康教育ですが、こどもたちが自分自身、そして周りの人たちの身体や生命を意識し、代えのきかない大切なものであることを考える時間になっていることを願っています。

 『子どもは生物学的存在として生まれ、社会的存在として育つ』(小林登、1999)と言われているように、子ども自身が「育つ力」を大いに発揮するため、家族のみならず、子どもを取り巻く大人や社会が、子どもを「育む力」を身に着ける必要があると考えています。この健康教育がその役割を少しでも担えればと、楽しみながら頑張っています。

福岡県立大学看護学部看護学科 小児看護学 准教授 田中美樹

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