リレーエッセイNo.19 「手遅れになる前に梃入れを〜相談対応から予防活動へ〜 仁藤二郎先生」

日本子ども健康科学会事務局でございます。平素より当学会にご高配を賜りありがとうございます。

リレーエッセイ第19回目は、REONカウンセリング・NPO法人れおん 代表、ウェルネス高井クリニック 心理士 仁藤 二郎先生です。

私は、岐阜県を中心として精神科外来や児童発達支援事業所、個人開業の相談室にてセラピストとして活動しています。対象が子どもの場合、発達障害や不登校、場面緘黙、ひきこもり、社交不安症に関連した主訴が多いと感じています。そのような臨床実践の傍らで、昨年にはNPO法人を立ち上げました。今後は、NPOを通して、不登校やひきこもりなど、子どもの健康にかかわる諸問題についての予防や啓発活動にも力を入れていくつもりです。
ところで、私が師事する奥田健次先生が創立した西軽井沢学園の教育理念の一つに「親子ともによい育ち」ということばがあります。子どもの望ましい成長や発達には、親も他人任せではなく、手間暇かけた子育てを学ばなければいけないという教えだと受け取っています。そして、私の相談活動においてもこのことばがいつも中心にあります。
この投稿では、自己紹介を兼ねて、日々の臨床実践の一部に触れつつ、NPO法人を立ち上げるに至る経緯を簡潔に綴ってみます。まず、私の所にどんな申し込みがあるのか、最近実際にあった保護者からの申し込み事例を挙げてみます。

  1. 小学生のケース(盗癖):息子が親のお金を盗むようになってしまい困っています。息子にカウンセリングをしてもらうことはできますか?
  2. 中学生のケース(不登校):中2の娘が1年以上学校に行かず家で過ごしています。本人は拒否していますが、そんな娘にカウンセリングをお願いできませんか?
  3. 高校生のケース(双極性障害、買い物依存):通信制高校2年の娘ですが、双極性障害と診断されています。医師からは自由に過ごさせるよう言われ、日中、スマホを見ながら過ごし外にも出ません。気分の浮き沈みが激しく、沈んだ時には通販での買い物がやめられず困っています。気分の浮き沈みをコントロールする方法を娘に教えていただけませんか?

前述の「親子ともによい育ち」を踏まえれば容易にご理解いただけると思いますが、子どもの問題に親が関与しないということはあり得ません。そこで、このような申し込みに対しては申し込み前や初回の面談時に、「本人が希望するなら直接会うことも考えますが、まずは保護者がお越しください」と伝えています。そして、ほとんどの場合(ほぼ100%)、困って問題の解決を望んでいるのは本人ではなく親です。

私からは、「保護者の対応が重要です。本人が希望していなくても、親が重要だと考えるなら、親が通ってください」とお伝えすることになります。その際に、「子どもじゃなくて、なんで私なんですか??」とか、「子どもの問題なのに親が通う必要があるんですか?」などの疑問が出てきたら要注意です。これらの疑問の背後には、子どもの問題なのだから子どもが通ってなおすものだろうという考えや、子ども自身が望んでいなくても、子どもがカウンセリングを受ければセラピストがなんとかしてくれるだろうという考えが透けて見えます。さらに言えば、「話せばなんとかなる」という思い込みがあるのでしょう。私からは、「話してその場はうまくやりとりが出来たとしても、生活環境が変わらなければ改善は難しいです。なので、まずは保護者が来て、家庭における対応を検討しましょう。それが継続される場合の条件(の一つ)です」とお伝えしています。普段の業務の中で、このように伝えることで説明に納得して保護者が相談を継続し、うまく改善や問題解決につながることもありますが、多くの場合、前述したような疑問が出てきてしまうような親とはうまくいきません。

子どもの問題が多様化する中で、親の考え方も多様化しており、普段の臨床実践の難しさを一層増しているように感じます。発達障害だけではなく、不登校でも場面緘黙でもできるだけ早く改善のための支援を開始することが望ましく、そのほうがうまくいくのは周知の事実です。その際、問題を取り去るという考え方ではなく、子どもの生活環境に介入することで、ポジティブな行動を形成していくという視点(ポジティブ行動支援:PBS)が重要です。一方、いくら親がセラピストの助言を受け入れて家庭における実践をしても、それがいくら早期の支援開始であったとしても、やはり問題が起きてからでは本人にもその周囲にも相当な負担がかかるのは避けられません。本人だけでなく、親にも時間的・経済的な負担がかかります(もちろん支援者側にも)。
こうした現実を踏まえ、私はあることばを思い出しました。それは、奥田健次先生から頂いた『社会に向けて、子どもや子育ての問題を予防するための活動もしていきなさい』というご助言です。この助言を踏まえて、NPO法人を立ち上げるに至った次第です。もちろん、理念や理想だけで効果的な予防や啓発活動ができるわけではありません。支援者としても子育てをする当事者としても、まだまだ技量不足であることは否めませんが日々研鑽を積みながら「親子ともによい育ち」を実現すべく邁進していく所存です。今後とも奥田健次先生を始め、諸先生方からのご指導ご助言を乞うことがあると思いますが、その際にはよろしくお願い申し上げます。

REONカウンセリング・NPO法人れおん 代表、ウェルネス高井クリニック 心理士 仁藤 二郎

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