リレーエッセイNo.15  「大切にしたい循環と円環の世界観 大曽基宣先生」

日本子ども健康科学会事務局でございます。平素より当学会にご高配を賜りありがとうございます。

リレーエッセイ第15回目は、聖霊女子短期大学 教授 大曽基宣先生です。

    

○「大人から子どもへ」の温かいまなざし

 私が暮らす秋田市では、4月中旬~5月上旬に桜が咲きます。この時期になると、愛知から秋田へ転居した3年前の春、いつもより遅れて咲く桜に、まだ残る寂しい気持ちを優しく癒してもらったことを思い出します。転居から3年間、生活の中で驚いたことがあります。それは、地域の方が娘に温かく声をかけてくれることです。小学校の入学式へ家族で歩いて向かう道中では、近隣の方々に「おめでとうございます!」とお祝いされ、娘が自転車に乗る練習をしていると、ジョギング中の方が「頑張れ!」と応援してくれる。ここは、地域で子どもを育てるという文化が、大人から子どもへの温かいまなざしが、まだ残っている地域だと感じています。

○「子どもから大人へ」の温かいまなざし

先日、仕事で少し気分が落ち込んだ帰り道に初対面の3歳頃と5歳頃の姉妹とすれ違ったのですが、出会い頭に2人は立ち止まり、笑顔で私を見上げて「こんにちは!」と挨拶をしてくれました。急に気持ちが温かくなり、お礼を伝えて別れました。その時、一瞬で温まった自分の気持ちを味わいながらハッとしました。これまで、大人が子どもを温かく見守る地域の環境をありがたく感じてきたのですが、実際にはその環境は循環していて、子どもから温かく接してもらうことで、大人が癒され幸せになる地域環境であることに気づいた嬉しい瞬間でした。

○「相互作用の循環」で人が育つ地域社会

これは、相互作用の循環のように思います。例えば、日本も含め世界で注目される幼児教育を概観すると、「力強い子どものイメージ[一人の人間として子どもをみる]」「自己理解の促進[自分の感情や考えに気づく]」「環境の重要性」「保育者の役割[注入型でなく参加型]」などの共通点がみえてきます。そこには、子どもと保育者が「一緒に参加する」という重要な概念が存在し、相互作用により人は育ち合います。その根本には、「人を信じる気持ち」が存在します。この気持ちは、説明により理解されるものではなく、実際の人との関わりを通してひとつひとつ積み上げられ、潜在意識下で育つものです。秋田へ来て、この力が地域レベルでも子どもと大人の間を循環しながら、膨らんでいることを実感しています。

○「円環の世界観」を楽しむゆとりを子どもたちに

一方、競争社会であることは地方も変わらず、地方に暮らす子どもたちにあっても習い事や塾などに追われる忙しい毎日です。共働き世帯が多いため、乳幼児は園で過ごす時間が長い傾向も都市部と同様です。娘がこども園に通っていた頃、「ママ、暗くなるまでに迎えに来てね。パパ、夜ご飯までに帰ってきてね。」と話したことがあります。子どもは、暗くなる頃にはお母さんが迎えに来てくれる、夜ご飯までにはお父さんが帰ってきて、またみんなでご飯が食べられる。そういった、直線的ではない円環の世界観に安心感を覚えているのかもしれません。この原稿を書いている3月31日現在、秋田ではまだ桜が咲く気配はありませんが、今年もまた遅れて咲く桜を楽しみにしながら、私自身も円環の世界観に期待を膨らませています。

子どもには、子どもの世界があり時間がある。これから先、子どもたちの生きる世界が「温かいまなざしが循環」し、「円環の世界観を楽しめる」ものであることを願いつつ、私自身も子どもたちの幸せな今と未来の一助となるよう、教育・研究を精一杯頑張ろうと思っています。

聖霊女子短期大学 教授 大曽基宣

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