リレーエッセイNo.11 「 『ボンディング障害』を知っていますか? 宮岡佳子先生 」
日本子ども健康科学会事務局でございます。平素より当学会にご高配賜りありがとうございます。
リレーエッセイ第11回目は、跡見学園女子大学心理学部教授 宮岡佳子先生です。
「ボンディング障害」を知っていますか?
アタッチメント(attachment)(愛着)という言葉は、よく知られていると思います。乳幼児が養育者(多くの場合は親)との間に形成される情緒的絆のことです。児童虐待等で不健全な養育を受けた子どもは、アタッチメントが障害され、「反応性アタッチメント症」を発症することもあります。養育者に愛着を求めず、楽しいなどポジティブな気持ちが少なくなり、突然怒り出すなど情緒が不安定になります。一方、「ボンディング(bonding)」は同じ情緒的絆のことですが、養育者が子どもに対してもつ絆のことです。子どもの出生後1年間の間に、養育者は子どもと交流を重ねながら「いとおしさ」「守りたい」などの肯定的感情が生まれボンディングが形成されていきます。このボンディングの形成が困難な状態を、ボンディング障害といいます。この病名は精神疾患の診断基準であるDSM(米国精神医学会)やICD(WHO)にはまだ載っておらず、正式な病名とはいえません。反応性アタッチメント症より知名度は低いかもしれません。しかし、子どもに関わる支援者は知っておくべきでしょう。
ボンディング障害のリスク要因には、本人の要因として望まない妊娠、パートナーからの暴力、幼少時や妊娠出産のトラウマ体験などがあり、子ども側の要因として夜泣き、子どもが持っている障害・疾患などがあげられています(1)。子に対して「自分の子であると感じられない」「腹立たしい」等の怒りや拒絶の感情を持ち、授乳、抱っこ、スキンシップなどの親密なケアや交流が困難になります(2)。子供の発育不全、児童虐待のリスクも大きく、予防や早期発見が重要です。保健所、産科、精神科、福祉施設など、多機関連携や多職種連携による支援が欠かせない疾患といえるでしょう。
(1) 山下洋:ボンディング障害とは? 精神科 41:714-720, 2022.
(2) 山下洋:ボンディング形成とその障害. (周産期メンタルヘルスのためのいちばんやさしい精神医学. 安田貴昭(編)).中外医学社, pp124-133, 2022.
跡見学園女子大学心理学部教授 宮岡佳子