リレーエッセイNo.8 「さやか星小学校を開校しました 奥田健次先生」

日本子ども健康科学会事務局でございます。平素より当学会にご高配賜りありがとうございます。

リレーエッセイ第8回目は、学校法人西軽井沢学園 創立者・理事長 奥田 健次先生です。

 これまで数多くの学校や教育委員会に対して、行動分析学によるコンサルテーションを引き受けてきました。駆け出しの頃に呼ばれた徳島県については、すでに四半世紀を超えて指導助言を継続しています。私の場合は、他にどの専門家も解決できない問題が振り分けられ、「奥田先生には、特に行動障害など困難事例の対応を」とされるほどです(Eduwell Journalを参照:https://eduwell.jp/article/evidence-based-special-needs-education-children-tokushima-aba-interview-part2/)。

 自治体の予算は限られていますので、学校コンサルテーションは1校につき年に2回まで。実質、2回目は成果報告と今後の課題の提供を行うものですから、アセスメントから介入プランを提案するのは初回の1回のみで、そこで勝負しなければなりません。それでも、ドラスティックな成果を上げ続けてきたことから、徳島県内でコンサルタントとして最長となる関わりになっているのでしょう。それらの困難事例の一部は、下記の文献をご覧ください(所収されているすべての事例は、私がコンサルテーションしたものになります)。

 しかし、徳島県といっても依頼主は「特別支援教育課」からになります。それ以外の部署からの依頼は、何もありませんでした。ところが、長く続けていると、不登校、ネット・ゲーム依存症、家庭内暴力、学級崩壊や学校崩壊、児童虐待などの相談も混ざってきます。これらについて、徳島県は新規事業として特別支援教育課以外の部署と連携し、数年前から新しい取り組みが始まりました。指導助言の対象は、公立幼稚園や全県下の公立学校にまで拡大されました。特別支援教育の事業で積み重ねてきたポジティブ行動支援が、今や徳島県全体の学校教育方針になりました。

 これらの仕事を、私の大学院生時代、そして大学教員時代から今に至るまでやっていて、やりがいを感じつつも「小さな虚しさ」も感じていました。それは、コンサルティたる教師にとっては「あまりに激しい行動上の問題を解決してもらうと、肩の荷が降りて一安心」という心境になるようで、その1年で体験したことが翌年以降に活かされないことでした。もちろん、困難事例の大幅な行動変容を体験して、その後さらに学んで校内リーダーや指導主事、管理職になられる先生も、わずかながらおられます。ただ、私には「困っている現場の直し屋さん」みたいな感覚があったわけです。そういう思いから、「自分自身で学校を作ってしまおう」と本気で考えるようになったのです。

 振り返れば、学校法人を設立するためには想像以上に大きな壁がありました。2012年に大学を超早期退職させていただき、サムエル幼稚園が開園したのが2018年です。その間、学校法人設立までの地元自治体や長野県からの扱いはとても厳しく、辛酸を舐めるような体験でした。ところが、幼稚園を開園してみるとすぐに成果が上がり、文科省が「先進的な教育を行う学校視察」に来られたり、長野県も同様に視察に来られたりしました。そこから小学校設立までは長かったようで短いような、諸先輩に言わせれば「たった6年で小学校まで出来たのは、すごい」とも言われます。2024年4月、さやか星小学校が開校したのです。せめて丸3年は教育支援をしたいので、募集は新1年生から4年生までしか取りません。1年目、4学年で全校児童20数名が入学しました。児童の数は少なかろうと教師の数は一定数必要ですので、経営的には非常に苦しいスタートになります。

 ただ、採用した教員にはとても恵まれており、多くは一念発起し転職までして来てくれました。公立学校では教師個人の工夫や奮闘が評価されないところ、さやか星小学校では学校全体でポジティブ行動支援、そして行動分析学による学習支援が堂々と出来るなど、水を得た魚のように目を輝かせておられます。教員が目を輝かせていますので、おのずと子どもたちも目を輝かせています。子どもたちが「できた!」「わかった!」に変わる瞬間は、心ある教師にとっては最高の好子なのです。学習に苦しんでいた他校からの転校組の児童らに対して、教師があれこれ工夫してそうなった場合、この喜びはひとしおです。

 サムエル幼稚園、さやか星小学校に不登校・長期欠席者は公約通りゼロです。保健室登校もゼロ。ある保護者によれば、「日曜日の朝、起きるとガッカリしてるんです」というので、理由を聞いたら子どもが「まだ月曜日じゃないのか」と答えたそうです。そして、日曜日の夜くらいになると「明日から学校が始まる!」とワクワクしているのだと。本来、学校はこうあるべきです。その理想が早くも実現しています。

 長野県の私立小中学校の長期欠席者数は、令和3年度調査では20人でした。それが、最新の令和5年度調査(文部科学省, 2024)では94人になりました。たった2年で、約5倍に急増しているのです。文科省の調査方法では「隠れ不登校」が生じますので、実際に不登校状態にある児童生徒の実数はさらに多いはずです。そのような厳しい社会状況の中、本学園で不登校・長期欠席者ゼロが続いているというのは、胸を張って良い実績ではないかと自負しています。

 少しでも、行動分析学による教育支援方法が知られて、広まっていくことを願っています。教育実践については、「さやか星小学校note」(https://note.com/sayakaboshi)をご覧ください。

文献

  1. 文部科学省(2024)「令和5年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」題に関する調査結果について」https://www.mext.go.jp/content/20241031-mxt_jidou02-100002753_1_2.pdf(最終閲覧日:2025年1月1日)
  2. 奥田健次編著(2018)教師と学校が変わる学校コンサルテーション. 金子書房.

学校法人西軽井沢学園 創立者・理事長 奥田 健次

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